ワセオケ クラシック風説書:vol.4
ベートーヴェン/交響曲第4番変ロ長調作品60
世にも有名な第3番『英雄』と第5番『運命』に挟まれた交響曲第4番の知名度はあまり高くないと思われます。しかし、よく考えてみればこの歴史的な2曲と同時期に作曲された第4番もまた傑作であることは必然なのかもしれません。
ノイガスによる肖像画(1806年)
ギリシアの乙女?
この作品についてシューマンは、「2人の北欧神話の巨人にはさまれた、ギリシアの乙女」と評したそうです。むろんこの2人の巨人とは第3番と第5番です。この乙女という形容は、フルートを1本欠く交響曲全作で最も小さい編成であることや、比較的短い演奏時間の中に簡潔にまとめられた古典的な様式美からくるものでしょう。一方そうした評価と裏腹に、曲想は一気呵成を体現したような爽快感溢れるものとなっています。
シューマン夫妻。作曲家のシューマンは批評家としても高名でした。
順風満帆
ベートーヴェンがこの作品を書いた1806年は作曲家として最もノッていた時期とも言えます。この年に着手したラズモフスキー四重奏曲、ピアノ協奏曲第4番、ヴァイオリン協奏曲、コリオラン序曲はどれも短期間のうちに完成を見ましたが、いずれ劣らぬ名曲です。そしてその例にもれず、交響曲第4番も数か月のうちに一気に仕上げられました。
緩急の妙
そうした筆の勢いすら感じられそうな本作のモチーフはいずれもいたってシンプルです。単純なパーツを終止線に向けて一直線に発展させていく手法はベートーヴェンの面目躍如と言えるでしょう。聴き所は、第1楽章の今にも停止しそうな重苦しい序奏から、鞭打つような駆け上がる音形をきっかけに火が付いたように一気に駆け出す主部への転換の鮮やかさでしょう。リズミックな伴奏の上で瞑想的な主題が静かに歌われる第2楽章、テンポの相異なる主部とトリオの緩急が鮮やかな第3楽章を経て、すばしっこい16分音符主体の第1主題がオーケストラ全体に拡がっていく疾走感あふれる第4楽章が後に続きます。
演奏時間も比較的短く、メリハリがあって一気に聞けるのでぜひ聞いてみてください。
おすすめ音源
ギュンター・ヴァント指揮 北ドイツ放送交響楽団 (1989年 Live全集より)
Spotify: (トラック番号26-29)
https://open.spotify.com/album/7rMtgsrkmBqAO7AwAlT8nZ
Apple Music: (トラック番号26-29)
https://music.apple.com/jp/album/beethoven-the-9-symphonies/383669355
(Tu.4 髙木佑恭)