ワセオケ クラシック風説書:vol.2
ベートーヴェン/交響曲第2番ニ長調作品36
「遺書」を乗り越えて
1802年春から、ベートーヴェンはかの有名な「ハイリゲンシュタットの遺書」で知られるハイリゲンシュタットにて静養に努めていました。この交響曲第2番は難聴が進行し、この「遺書」をしたためた時期の作です。自身の病状に苦悩しながらもそれを克服する強い意志が見られる「遺書」を経た彼の生への希望が窺え、全交響曲中で最も寛大な作品と言えるでしょう。ウィーンに戻ってこの交響曲を完成させると、交響曲第3番「英雄」などが並び立つ「傑作の森」と呼ばれる時期に突入していきます。
「ハイリゲンシュタットの遺書」を書いた家
歌心と構築性の両立
初演当初、「奇をてらいすぎる」との評もあった本作の特徴を見てみましょう。構成面では、第1楽章の序奏を拡大してみたり、第3楽章に「スケルツォ」を歴史上初めて導入してみたり、第4楽章に第1楽章の要素を持ち込んで楽章ごとの直接の関係を持たせてみたりと、第1番に比べて独自性が強まっています。また、オーケストラの扱いにも進歩が見られ、第1楽章の第2主題の提示などクラリネットに長時間にわたって重要な旋律を担当させたり、チェロとコントラバスを部分的に独立させてみたりと斬新なアイデアが光ります。
しかし、こうした新機軸よりも、第2楽章の慈愛に満ちた息の長い旋律がこの交響曲の最大の個性でしょう。ベートーヴェンがこれほどまでに旋律を前面に押し出した曲はほとんどありません。この美しい旋律は彼の死後、歌曲として編曲されました。
ここに見られるベートーヴェンの個性の萌芽は第3番以降の交響曲で1つずつ開花していきます。のちの作品を聞いてからこの第2番を翻って聞いてみると、それらのルーツが見えてくるかもしれません。そうした聴き方もまた面白いのではないでしょうか。
おすすめ音源
ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮 アムステルダム・ロイヤルコンセルトヘボウ管弦楽団 (1993年)
Spotify: (トラック番号9-12)
https://open.spotify.com/album/6xRQXlfwRop7SigEMjxK6n
Apple Music: (トラック番号9-12)
https://music.apple.com/us/album/beethoven-symphonies-nos-1-2-3-eroica-8/735044262
(Tu.4 髙木佑恭)